「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる:地域×デザインの実践」発売記念!著者の坂本大祐さんにいろいろ聞いてみた!<前編>

勉強せずには2

おもしろいデザインが、ローカルの抱える課題を解決する

3月17日発売の書籍「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」

こちらの書籍では、日本の様々な地域で活躍するデザイナー21人を取り上げ、彼らがデザインを使って、どのようにその地域の課題を解決していったのか、その役割や仕掛け、そしてチャレンジについて、裏舞台も含めて紹介している(BRIDGE KUMAMOTO代表かつあきも寄稿しています!見てね!)。
これまでの日本における“デザイン”の枠を超え、全体の設計や戦略までも打ち立てるような“広義のデザイン”が、新しい動きとして各地で同時多発的に出て来ていること、そしてそれは、日本の新しいデザインの潮流ともなり得る可能性があることを、この本では示唆している。

ローカルで働くデザイナーにとっても、そしてまた、ローカルに住む住人や行政にとっても、地域の課題を解決し、変化を呼び起こすためのヒントが詰まっているものと言えるだろう。

今回は、その著者の1人である坂本大祐(さかもと・だいすけ)さんに取材を行った。

おもデザ本1

人口規模の少ないエリアに、コワーキングスペースができると、どうやら面白いことになるらしい。

かつあき
ではまず、簡単な自己紹介をお願いします。

坂本さん
今から17年前(2005年)に、奈良県の東吉野村という、人口1700人の小さな村に移り住み、ここでずっとデザインの仕事をしています。2015年に転機がありまして、国・県・村の3者と共同で、この山奥に「オフィスキャンプ東吉野」というシェアとコワーキングスペースを開設・運営することになり、現在約7年目を迎えています。

かつあき
「オフィスキャンプ東吉野」は非常に評判になりましたよね。

坂本さん
おかげ様で沢山のメディアに取材いただきまして、多くの方に認知していただいています。
こちらの運営を通して、人口規模の少ないエリアにコワーキングスペースを作ると、面白いソリューションが生まれる、ということを自分自身も大きく体感値として持つことができました。
そのような経緯もあり、同時期に地方でコワーキングスペースを開業した方々と共に、2018年に一般社団法人ローカルコワークアソシエーションという会社を作りました。オフィスキャンプ東吉野の成功事例を元に、ローカルエリアにコワーキングスペースを増やす活動を行い、他のローカルエリアにも広げていくことを目的とした会社です。

かつあき
僕の住んでいる所は熊本ですが、このようなローカルに移り住んで楽しく暮らしている人も増えて来ている、という印象があります。オフィスキャンプ東吉野は、奈良の山奥にありながら、少し車を走らせれば奈良の中心部に行ける。さらに言うと、大阪や京都などの大きな経済圏とすぐ繋がれる、そんな立地もやはり成功した要因でしょうか?

坂本さん
そうかもしれませんね。
もちろん当初から意識はしていませんでしたが、車で約2時間走れば、大阪・京都・名古屋などの都市圏に行けるという立地は利点ですね。ローカルのコワーキングが成功する条件として、都市との立地関係もあるかもしれません。

かつあき
都心に住んでいる人にとって、2時間というと、ものすごく遠いイメージがあるけれど、我々田舎に暮らす人間からすると、日常の範囲内。このような距離感の違いや、時間に対する感覚の違い、これは結構大きいなと思っています。

佐藤かつあき

ローカルで求められるのは、ジェネラリスト的な動きと、広義のデザイン。

かつあき
今回この本を出版することになった経緯について、教えていただけますか?

坂本さん
中川政七商店さんが主宰されている“大日本市”というイベントがあり、そこでトークセッションをしたことがキカッケです。たまたま学芸出版の編集の方が、それを聞いてくださっていて、イベント後にお声掛けいただきました。ですから、まず学芸出版さんから企画をいただいて、それに応える形で、自分と新山くんが乗った形になります。

かつあき
この本の中で、この21人のデザイナーさんを選んだ理由をお聞かせいただけますか?

坂本さん
書籍のテーマである「ローカル」に関わる方々を選出しました。
地方で活躍しているデザイナーさんはもちろんですが、それだけではなく、都市部で活躍されている方でありながら、ローカル的な活動をされているデザイナーさんも含めました。
この「ローカル的な活動」の解釈ですが、デザインという狭い分野だけに留まらずに、その地域に必要なことを全てやる、その全体の中にたまたまデザインも入っている、……というような、包括的な活動のことを意味しています。デザイン事務所ではあるけれど、デザインというドメインだけにとどまっていないような方々、ある意味「スペシャリストではなく、ジェネラリスト」な方々を選ばせていただきました。

かつあき
なるほど。確かに、デザインの王道というと、グラフィックデザイナーさんや、プロダクトデザイナーさんといった職人的なスペシャリストのイメージになりますが、それは狭義ですよね。デザインはそれだけじゃない、もっと広い分野に渡っているものですよね。

坂本さん
そうなんです。
日本におけるデザインは、意匠や美術的アプローチのように思われている所がありますね。絵を描ける人が携わるもの、といった感じで。
でも実は、広義のデザインは、“設計”や“計画”などの意味合いも含んでいて、そちらの要素の方がとても強いんです。そのような、いわゆるデザイン思考とか、デザイン言語とか、そんな文脈にある広義のデザインを、必要に迫られてやり始めている方々……そういう方々は「ジェネラリスト的」「ローカル的」な活動を行っている、というくくりで今回選ばせていただきました。

かつあき
ローカルでは「スペシャリスト」だけをやっていられない、というか、「ジェネラリスト的」な動きを求められる、というのは確かにありますね。首都圏の「器」と、地方の「器」の違いかな、と思います。

坂本さん
そうですね。ローカルでは、仕事が役割ごとに細切れになって出て来ないんですよね。まるっと固まったものとして、ボロっと出て来るので。それを一旦ぜんぶ丸ごと受け止めて、紐解きながら……場合によっては、細かくタスク化して担当者に渡す必要があったり、担当してくれる人がいなければ、ぜんぶ自分がやることになったり……そんな中で、必然的にジェネラリスト的な動きをせざるを得ない、という感じですよね、予算規模なども含めて。

かつあき
自分も熊本県でデザインに携わる身ですが、やはりジェネラリスト的な動きは非常に多いです。言われてみれば、自分はスペシャリストの方に行けなかった、というか、興味を持てなかったのはあるかもしれません。仕掛けとか目に見えない設計を含むデザインの方が向いてました。

坂本さん
ローカルのデザイナーには、前職が設計や建築だった方も結構いらっしゃいますよ。自分自身も建築の学校を出ていますが、建築の設計は、図面を描けば終わり、というものではないんですよね。その先に、設計したものを作ってくれる人がいる、現場の施工管理や進行管理など多くの人が動くわけで……その中で、仕事全体や大きな流れなどを掴んでいたのは大きかったですね。その土台があった上で、広義のデザインが徐々に繋がって来た感じです。

かつあき
坂本さんはデザイン畑ではなく、建築畑だったんですね。共著者の新山さんも、元々デザイナーではなかったという話ですよね。

坂本さん
彼は最初、行政職員でした。

かつあき
行政を知っているのは、すごく有利ですよね。行政は行政のロジックで動いている、独自の言語、独自のプロトコル(儀礼・形式・手順)がありますからね。新山さんが行政の中にいた経験があることは、本当に強いなと思いました。

坂本さん
おっしゃる通りです。自分も、10年くらいガッツリ行政機関と取り組んでいたので、それがとても身になっています。行政の仕事は、独自プロトコルがあって、やりづらいことも多々ありますよね。だから、ある程度レジリエンスな(柔軟な・適応力のある)人材でないと、地域のデザイナーは難しいのかなと思います。職人的なデザインをやりたい人にとっては、ローカルよりも首都圏の方が、活躍の場は広いように感じますね。

かつあき
そうですよね。今回の書籍には、僕も原稿を書かせていただきましたが、「地方でやっていく上では、これがしたい!……というこだわりが強すぎると、シンドイかもしれません」というような話を入れています。

坂本大祐

<後編に続きます!>

MEMO

■オフィスキャンプ東吉野
奈良県の東吉野村にある、築70年の民家をリノベートしたシェアオフィス。
オフィスをまるごとキャンプして「遊ぶように働く」というコンセプトで、2015年にスタート。
http://officecamp.jp/

■合同会社オフィスキャンプ
地方で生活するフリーランスや経営者が集まってできたクリエイティブファーム。
「都会と地方」「行政と民間」「ビジネスとアート」「日本と海外」など、2つの異なる視点を持ったクリエイターたちが、多数派の常識に縛られない道を探求。多様な業種のクリエイターたちによる活動のほか、コワーキングスペースの管理運営なども行っている。
https://officecamp-nara.com/

■一般社団法人ローカルコワークアソシエーション
地域で“暮らしを描いて生きていく”人たちを応援するためのクリエイティブ・デザインファーム。
自ら選んだ好きな土地で人と繋がり、仕事を生み出して行くために、情報発信・場づくり・仕組みづくりをデザインし、豊かな地域の発展&個人の幸せの最大化に貢献する。
https://localcowork.jp/

■大日本市
「日本のいいものと、いい伝え手を繋ぐ」をミッションとして掲げ、中川政七商店が運営している事業。
工芸を中心とした、日本各地のものづくりメーカーが集まる合同展示会やイベントを開催。
2020年2月開催では来場者3000人を達成したが、その後、新型コロナウイルスによる影響で、1年以上開催を見合わせ、2021年6月から再開。
https://www.dainipponichi.jp

■中川政七商店
享保元年(1716)に奈良に創業以来、手績み手織りの麻織物を扱い続けている。
近年は工芸をベースにしたSPA業態を確立し、全国に直営店を展開。
そのノウハウをベースに業界特化型のコンサルティング事業も行っている。
https://www.nakagawa-masashichi.jp

TEXT: Sukkirist