「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる:地域×デザインの実践」発売記念!著者の坂本大祐さんにいろいろ聞いてみた!<後編>

勉強せずには2

日本の美大・芸大で教えるデザインは狭い範囲のもの。世界には、より広義のデザインが存在する。

かつあき
この本を、どんな人に読んでもらいたいですか?

坂本さん
まず真っ先に、これから美大・芸大を卒業して、デザインの分野に取り組むような人たちです。「大学で学ぶようなデザイン分野だけではなく、世の中にはこういうデザインの方向性もあるんだよ」ということを、概念だけでも知っておいてもらえるといいな、と。
つまり、デザイン分野のキャリアパスが、美大・芸大を出て、大きな広告代理店か、それなりに名の通ったデザイン事務所か、という固定観念があると思いますが、実はそれしかないわけではなく、地方には我々のようなデザインのあり方も存在しているんだ、ということを知って欲しいですね。ローカルにおけるデザインは、綱渡りの暮らしをするような貧乏なものではなく、それなりにみんな楽しく暮らしていることや、大変なこともありながら仕事をちゃんと出来ていること、そしてこれからもどんどん仕事が増えて来る、そんな感覚を自分は持っているんです。その現場にこれからの人たちがどんどん参画してくださって、より領域を広げてもらえると助かるし、地域も良くなる。それは確信しているので、これからデザインを生業にする若い人たちに届けたいですよね。いきなり新卒で、我々のようなローカルに飛び込んで来てくれても面白いのかな、と思っています。

かつあき
美大・芸大では、ローカルな現場を想定した教育を行っていないんですか?

坂本さん
やはり美大・芸大という段階で、どうしてもそちらの文脈(プロフェッショナルな狭義のデザイン)に寄ってしまうので。もちろん、それを学んだ方が良いのですが、それだけになってしまうと、片手しかないような感覚がします。
例えば、デンマークなどには、ストラテジックデザイナーという職種があり、デザイナーの約17%を占めています。その人たちは、目に見える作品的デザインのアウトプットをするのではなく、コンセプトやロジックといった部分を組み立てることが仕事です。通常のデザイナーよりも幅広い知見を欲求される職種なので、職人的なデザイナーとは学ぶ方向性が違っていると思います。

かつあき
坂本さんが注目している地域を、教えていただけますか?

坂本さん
長崎県の雲仙市にある小浜地域です。
今回の著書の中では、「景色デザイン室」代表の古庄くんが書いてくれていますが、ここは自分にとっての“モデル地区”なんです。
ここには、城谷耕生さんという素晴らしいデザイナーさんがいらっしゃって、自分はかなり影響を受けました。オフィスキャンプ東吉野を作る際に、唯一視察に行った場所が、城谷さんの造った「刈水庵」だったんです。2014年当時、地方創生が起こる夜明け前、という感じでしたが、城谷さんはそれよりもっと早く、デザインを使って地域を面白くする活動を既にされていたんですよ。
刈水エコヴィレッジ構想というものをお作りになって、あの辺は地熱が出るエリアなので、温泉の熱を使って発電するとか、学生さんと組みながらエリアをブラッシュアップしたり、リサーチしたりする、そんな活動を、自分たちが視察する2年前から始められていて、自分もかなり刺激を受けました。それに、古民家を改修したスタジオ兼ショップ兼カフェもされていて、ものすごく格好良かったんです。かなりガツンとやられて、自分もこういうものを作るぞ!と思いました。これは結構大きなキッカケでしたね。もう大先輩って感じです。

かつあき
そうですか、僕は九州に住んでいながら、勉強不足でした。
皆さんのベンチマークというか、大きな影響を与えれたものを伺うのも、面白いですね。

アナザージャパンHPより
アナザージャパンHPより

東京駅前に開発&オープンするビッグプロジェクト「アナザージャパン」、その立役者となったのは、辺境のデザイン会社。

三菱地所と中川政七商店による共同プロジェクト、アナザージャパン。三菱地所が東京駅前で開発を進めている「TOKYO TORCH」において、各都道府県出身の学生が、各自の地元産品をセレクトして、プロモーション・販売までを手がける「47都道府県地域産品セレクトショップ」である。
(アナザージャパン第1期店舗は2022年3月末竣工予定、2022年8月開業予定)
https://www.wantedly.com/companies/another_japan

大きな話題となっているこのプロジェクト、その影の立役者は、坂本氏率いる合同会社オフィスキャンプ。
ここでは、デザイン会社としてクリエイティブ成果物を提出するだけはなく、ブランディング&アイデアを提供するといったストラテジー部分を担っている。デザイン会社という枠にとらわれていないこと、そして
ローカルで培った知見を元に、ローカルを飛び出し、東京の中心にまで活躍の幅を広げていることは、注目に値する。

かつあき
どういうタイミングで、アナザージャパンに参画されたのですか?

坂本さん
お声掛けいただいたのは、去年の6月ぐらいでした。
まず東京と各自治体の課題として、地方創生的な活動をやらなければいけない、ということが最初にあり、そのための場所が既に三菱地所さんとの間で確保されていたと思います。そしてその場所で47都道府県の産品を売る、という構想までは決まっていて、中川政七商店がアサインされた。そこで恐らく、中川政七商店さんがアイデアとして出したのが、「ただ店舗を構えるだけでは面白くない」「学生向けにしてみたらどうか」という話。それは面白いとなり、その骨格が決まった段階で、最後に我々がアサインされました。この中で我々が果たした役割は、具体的にどんな名称を付けるか?どんなブランディングを行うか?何をビジョンに据えて行うのか?……というような部分。例えば、アナザージャパンという名称であるとか、フロンティアスピリットと郷土愛、のようなコンセプトなど、いわゆる概念の部分ですが、これを中川政七商店さんや三菱地所さんと一緒にディスカッションしながら作り上げていったんです。

かつあき
先程お話しに出て来た「ストラテジックデザイナー」的な役割ですよね。

坂本さん
47都道府県の学生さんがセレクトショップを経営する、という所までは決まっていたんですが、見方を変えると、それって実は、47都府県の学生が集まって作る“もう一つの日本”みたいなものですよね、と。その辺の落とし処などは、我々が入って議論する中で構築できた部分です。ただ漫然と走ってしまうと、“単なるお土産物屋さん”だけになってしまいますよね、そんなものは面白くも何ともない、とチーム全員が思っていましたから。これは「学生が作るもうひとつの日本、ないしは私達が作るもうひとつの日本」だと、柱となる概念を打ち立てたことで、バラバラだったものがまとまり、全体に神経が通りました。

かつあき
言葉選びや、ビジュアル表現も素晴らしいですよね。学生をメインに押し出していながら、子供っぽいノリではない、その子供扱いしていない感じが、とても良いなと思いました。荒野に向かって立ち向かうとか、朝焼けを待つとか、そんな世界観もすごくいい。

坂本さん
学生さんの感性を生かしながら、彼らが実装できるように大人が少し胸を貸す、そんなことが出来たと思います。我々も彼らから教わることがある、という考えを前提として持っていましたし、目線を一緒にすることがとても大事だと、大人も学ぶ必要があることを意識していました。若者に理想を押し付けるだけじゃなく、大人は大人なりのことをやらなきゃいけない。それは大人側の決意としてあるべきだと思います。
自分はこれまで、辺境に移住して法人を作ったり、拠点運営をしたり、ローカルで様々なことをやって来ましたが、今年47歳を迎えることもあって、そろそろバトンを渡すことを意識しはじめているんです。自分たちだけで面白がっているのでは、この先に続いていかない。やはり何らかの形で後進に譲れるもの、後進が喜んで受け取ってくれるようなバトンを作りたいな、と思っています。そのバトンの一つは「学び」のチャンスだと思いますが、今回のアナザージャパンではそれがうまく表現できているので、自分にとってはすごく大きい意味があります。

ローカルのデザイナーは、戦わない、奪わない。各地でつながれば、もっとおもしろいことになる。

かつあき
ここから少し余談になりますが、ローカルのデザイナーさんについて、お話を伺いたいと思います。
僕の知っているローカルのデザイナーさんたちは、のびのびしていて楽しそうだな、と最近感じているんですよね。
僕はこれまであまり他地域のローカルのデザイナーさんと交流がなかったのですが、グッドデザイン賞の会場で新山くん(書籍の共著者でもある、福井県のデザイナー)と知り合って仲良くなり、そこからRENEWに呼んでいただいたんです。RENEWのイベント「まち・ひと・しごと」でも、いろいろな地域のデザイナーさんと一気に繋がりました。ローカルのデザイナーさんは、皆同じようなことを考えていたり、共感できることが沢山あったり、皆正直というか、ぶっちゃけて話ができるところがあるし、お互いリスペクトがあって、認め合っている感じを受けました。東京でやっていた時は、ヒエラルキー構造のような、縦の感じがあったけれど、ローカルでは横の関係でこんなに沢山楽しくやっている人たちがいるんだ、ということは大きな発見で、すごく勇気づけられましたし、それが自分にとって大きな転機になったような気がします。
それまでは、東京と九州ぐらいしか見えていませんでしたが、日本というものがちょっと見えてきた感覚がありました。

坂本さん
そうですね、各地域のデザイナーがどんな風にやっているのか、今回いろいろなケースがようやく書籍にまとまったことで、形として伝えることができると思っています。
紹介し切れていない方々もまだ沢山いらっしゃるので、また次の第2弾、第3弾になるものが出て来るといいなと思うし、この書籍がキッカケとなって、デザイナー同士のネットワークが生まれたり、知見の共有をし合ったりと、そんな動きに繋がれば嬉しいです。

かつあき
各地域に散らばっているデザイナーさんが越境したら、もっと楽しくなるでしょうね。

坂本さん
シェアリングのムーブメントを盛り上げていきたいですよね。
ある地域の成功事例を、他の地域にも当てはめることができるかもしれない。それは、アイデアや仕組みを真似したとか、取った、取られた、というものにはなりにくいんです。なぜかと言うと、仕組みは真似できたとしても、中身を真似することは絶対に出来ないからです。各地域のデザイナーは皆、それをもう分かっているので、仕組みを真似されたとしても「奪われる」という発想にはならないんですよね。その地域の事情が絡んでいるから、絶対に真似できないものがある、だから「奪われない」し、「戦い」にはなり得ない。むしろローカルの抱える同じような課題に直面している者同士、わりと仲良くなりやすいし、知見の共有によって一緒に良くなっていきたい、と思います。

かつあき
それぞれの地域のリソースを、よりうまく使えるようになって行くと良いですよね。そういう想いで僕も現在活動中です。

坂本さん
佐藤さんの活動は、ソーシャルの文脈がものすごく強いですよね、非常に興味があります。また熊本にもお邪魔したいと思っています。

かつあき
またディスカッションしたいですね!

<おわり>

おもデザ本1

前編の記事はこちら→

MEMO

■ストラテジックデザイナー(戦略デザイナー)
クライアントの事業や組織を理解した上で、問題解決のための新たな枠組みの構築を行う。デザインを活用して、事業アイデアと消費者のインサイトを結び付けていくことがストラテジックデザイナーの役割。
プロダクトのコンセプト・方向性などが定まらない初期段階で、戦略とデザインを活用し、散らばった考えを整え、柱を打ち立てる。

■古庄悠泰(ふるしょう・ゆうだい)
景色デザイン室 代表 
景色デザイン室は、長崎県の小浜温泉街にあるデザイン事務所。
ごく自然に暮らしに溶け込みながらも、生き生きと存在感を放ちその場所の空気を形成している、そんな「やがてその街の景色になるような」 ものごとを届けたいという想いから、景色デザイン室 / keshiki design studioという屋号に。
http://keshikidesign.com/about/

■城谷 耕生(しろたに・こうせい、1968年-2020年)
長崎県雲仙市(旧小浜町)生まれのデザイナー。
1991年、イタリアに渡りミラノの建築・デザイン事務所勤務に勤務。2002年に帰国、雲仙市にグラフィックから建築まで手掛けるデザインスタジオSTUDIO SHIROTANIを開設。
九州の伝統工芸産地の職人たちと共同作業を行ったり、長崎大学、佐賀大学との共同プロジェクトや、専門学校などで講師を務めたりなど、地元に貢献。2020年、52歳にて死去。
http://www.koseishirotani.com/

■刈水庵(かりみずあん)
長崎県雲仙市小浜町にあるショップ&喫茶店。デザイナーの城谷耕生氏が、築80年の屋敷を改装したもの。
https://www.karimizuan.com/

■刈水エコヴィレッジ構想
デザイナーの城谷耕生氏が長崎県雲仙市小浜町の刈水地区で行った、空き家を活用した地域活性化プロジェクト。まちそのものをデザインするというもの。

■アナザージャパン
三菱地所と中川政七商店による共同プロジェクト。三菱地所が東京駅前で開発を進めている「TOKYO TORCH」において、各都道府県出身の学生が、自らの出身都道府県の地域産品を自らセレクトし、プロモーション・販売まで手がける「47都道府県地域産品セレクトショップ」。
https://www.wantedly.com/companies/another_japan

■新山 直広(にいやま・なおひろ)氏
産地特化型デザイン事務所「TSUGI」代表。
2009年に大阪から人口約4,200人の町、福井県鯖江市河和田(かわだ)地区に移住。
企業のブランディングや全国でのPOPUPショップの出店、体験型マーケット「RENEW」の開催、オリジナルアクセサリーブランド「Sur」の制作・販売など、“産地直結型”のクリエイティブカンパニーとしてさまざまな活動を行っている。

■RENEW(リニュー)
“見て・知って・体験する” 作り手たちとつながる体感型マーケット。
福井県の鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベントで、会期中は、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・眼鏡・繊維の7分野の工房・企業を一斉開放し、見学やワークショップを通じて、一般の人々が作り手の想いや背景を知り、技術を体験しながら商品の購入を楽しめる。また、RENEWでは狭義の産業観光だけにとどまらず、社会的意義の高い活動を行う全国各地のローカルプレーヤーが産地に集う、国内最大規模となる一大マーケット、「まち/ひと/しごと -Locaism Expo Fukui-」も開催。
https://renew-fukui.com/

■「まち/ひと/しごと -Localism Expo Fukui-」
全国の社会的意義の高い活動を紹介するショップ型の博覧会。
「暮らし・食・教育・福祉・ものづくり・コミュニティ」といったキーワードで、全国から多様な産品やプレイヤーが集合し、会場内で展示・販売・トーク・ワークショップを繰り広げる。当事者から直に想いやストーリーを聞くことで、これからの地域や暮らしのあり方のヒントを見つける場ともなる。
https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
※参考)まち・ひと・しごと創生
内閣府が2014年に開始した政策。人口急減・超高齢化という日本が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指すもの。

TEXT: Sukkirist