「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる:地域×デザインの実践」発売記念!著者の新山直広さんにいろいろ聞いてみた!<後編>

勉強せずには2

ローカルデザイナーは、地域との「相性」が大事。

かつあき
それでは最後の質問です。新山さんが現在、取り組んでいることを教えてください。

新山さん
3つあります。まず、超ミクロの話で言うと、社内の労務改革です。どうやってヘルシーに生きるか、ということを超重要案件として足元固めをしています。仕事は大好きなんですが、やはり家庭とのバランスを取っていかないとならない。しかも社員10人にもなると、より会社化していかないと組織が回らなくなる、……ということで、今頑張って土台づくりをしている最中です。
2つめですが、RENEWを会社化しようと取り組んでいます。これはある種小さな産業革命で、結構すごいことだと思っています。それまで僕らの街は、BtoB的な感じで「下請けの町」だったんですね。リーマンショックがあって、そこから「自分達の商品を作る」というBtoCを経て、今現在キーワードはEtoCに。僕らが勝手に作った言葉ですが、EtoCの「E」は「Experience」と「Education」で、「体験と学び」をお客さんに提供することが新しい買い物体験になる、という概念なんです。そこを仕組み化していこうという流れで、RENEWを会社化し、通年型の産業観光として、毎日RENEWをやっているような状況を作ることに取り組んでいます。

そして3つ目は、我々の新しい挑戦として、ホテルを作ろうとしています。RENEWがソフトの部分だとすると、ホテルはハードの部分です。ハードを整えて、この街に泊まってもらえる状況を作ることが目的です。

かつあき
お聞きしていると、全て1本筋が通っている感じがしますね。新山さん自身が、間違いなく地方デザイナーのベンチマークになっていると思います。我々も学ぶことだらけです。
47都道府県を見渡した時に、福井県はかなり難しい地域なのではないかと思うし、しかも鯖江市というところもまた難しい感じがします。担い手不足や、長引く不景気もあって、地方は正直ガタガタじゃないですか。特にデザイナーにとって沼地のような、そういう過酷な地域に飛び込んで、ここまで頑張って来たこと、少しずつ生態系を整えて来たことは、本当にスゴイことだと思うんですよね。

新山さん
ありがとうございます。もちろん自分も頑張りましたが、鯖江という町と、僕の相性がすごく良かったかな、と思うことはあります。そして、時代が求めているところとタイミングが合ったこと、僕は本当に運がいい人間だなと思っているんです。鯖江の人の中には、「俺が新山を育てた」って言ってくれる人がすごく多くて、これが結構嬉しいんですよね。まだ何者でもなく、何も取り柄も実力もないやつを、13年かけて俺が育てたと、みんなが言ってくれるのは、本当に嬉しいことです。

かつあき
確かに、地域との「相性」は大事ですね。
僕自身も、熊本出身ではないし、妻の実家というくらいで、よそ者ではあるんですよね。でも何かうまいこと受け入れてくれた。僕も熊本と相性がいいと思っているので、そういう意味では新山さんと近いところがあるかもしれません。もしかすると、今回のデザイナーさん21人も同じように、その地域と相性が良かったのかもしれませんね。

RENEW 2021は延期されるも無事開催された。HPより。
RENEW 2021は延期されるも無事開催された。HPより。

ローカルでは、デザイナーの信用が低い。「デザイナーも意外とやるじゃないか」と思われるよう、人柱になることを意識した。

新山さん
それはありそうですね。
ところで、佐藤さんは元々、広告系の人ですよね。ブランディング系ではないにも関わらず、最近の活動では、ヤマチクのブランディングというのがありますよね。これは佐藤さんの功績がすごく大きいと思いました。

かつあき
ありがとうございます。山﨑さんとの仕事は本当に楽しいです。
地域でやって行くということに関して、実は、新山さんのRENEWを体験して、影響を受けたんですよ。
RENEWの前夜祭がありましたよね。そこで、新山さんをはじめ関係者の皆さんがお揃いの法被を着て、すごい大声を出して盛り上げようと頑張っていた。普通デザイナーって、あんなことをしないじゃないですか。大体はシュッとすまして、座っているような感じですよ。だから僕は、すごく強烈だったんです。地域でやるってことは、やっぱりこれくらい身体を張って、声出してやるんだなと……あれにはかなり感動しましたね。

新山さん
あれは僕も、人生の数ある飲み会の中で、最高にトップレベルでした。地元のおっちゃん達と、「まち/ひと/しごと」のメンバーや、皆が仲良く一体になっていて……しかも100人以上でしたよね。今はコロナで、できないのが悔しいです。

かつあき
本当にすごかったです。普段静かにパソコンに向かって仕事しているようなデザイナーが、ああやって、ムリしてでも鬨の声を上げる、っていう感じが……強烈な印象で、未だに肝に銘じているところがありますよ。地域で何かを大きく動かそうと思ったら、やっぱりああいうことをやらないとダメだな、と。

新山さん
それも深い話があるんですよ。もともと鯖江の人はみんな、デザイナーを嫌いだったんです。デザイナーは詐欺師だ、みたいなイメージを持っていたんです。

かつあき
熊本でもそれはありますよ笑

新山さん
分かりますよね。だから、自分が人柱になって、「デザイナーって意外とちゃんとやるじゃないか」と思われるように。そういうことをできる人が、何人か周りにいたっていうのも結構大きいかな、とは思います。1人だとできないけれど、みんなで渡れば怖くない、と。
そうそう、今回、書籍を出版するだけで終わるのではなく、これを契機にもっと大きく動いて行きたい、各地でいろんな仕掛けをしていきたいと思っていて、学芸出版の編集と話を進めています。例えば、九州でトークイベントや展覧会など、各地のデザイナーさんと組んで何かできるといいなと思っているんです。佐藤さんにもその都度、イベント出演を依頼させていただく可能性が出て来るし、九州でもやりたいと思っているんですよ。

かつあき
ぜひやりたいですね、考えましょう!

前編の記事はこちら→

TEXT: Sukkirist